令和6年度文化講演会『米国大統領選挙をどうみるか?笹川平和財団上席研究員 渡部恒雄(高34回)

講演会の内容

   2024年の大統領選挙は米国の今後の国際関与の方向性を問う歴史的にも重要な選挙になります。岸田首相は、今月の米議会での演説で「米国の一部は自信喪失(self-doubt)」に陥っている」と率直に指摘し、「米国の関与なしに中露の挑戦の中、既存の国際秩序は維持できない」という世界の現実を伝えました。そして、米国は孤独ではないとして、米国だけが世界秩序を支える必要はなく、日本のような価値を共有する国家が米国と共に国際秩序を支えていく意志があるとして「日本は米国と共にある」と訴え、議会の満場の拍手を得ました。
 日本のこの立場は、私が参加する笹川平和財団の「トランプ後のアメリカ」プロジェクトの中では、今後の日本の国家戦略の在り方として「プランAプラス」戦略と呼んでいるものです。我々のプロジェクトでは、これまでのように日米同盟を基軸に置く戦略を「プランA」として、それに代わる戦略である「プランB」の可能性を検討しました。しかし、例えば、中国との協力に軸足を移す、米中のどちらとも距離を置きその他の国家との協力を進めるなどの選択肢は、どれも現実的ではなく、日本の利益にならないという結論となりました。だからといって、現状維持政策となる日米同盟の維持だけで、今後の日本の生き残りには十分ではないと考え、単なる日米同盟の維持だけではなく、日米同盟の機能を高め、インド太平洋地域と世界の秩序に貢献する「公共財」として、米国の地域と世界への関与を継続させるような「プランAプラス」戦略を検討しています。
 たまたまプロジェクトメンバーの一人である日経新聞のコメンテーターの秋田浩之さんが、米ウォールストリートジャーナル紙のコラムニストで歴史家のウォルター・ラッセル・ミード氏にこの話をしたところ、彼が興味を持ちコラムにしたため、この「プランAプラス」戦略が世にでております。
 いずれにせよ、バイデンは国際関与に前向きでトランプは「アメリカファースト」ですので、選挙の結果によっては、米国の国際秩序の関与の在り方が大きく変わる世界に影響する選挙になるでしょう。
 日本では「もしトラ」(もしトランプになったらどうする?)から「ほぼトラ」(ほぼトランプの勝利で間違いない)という言葉が独り歩きしていますが、現時点ではトランプ氏が優位ではありますが、その結果は予断を許さないほど、接戦となるでしょう。バイデン政権に勢いがないのは事実です。歴代政権の第一期三年目の支持率平均を比較すると最も低い政権がカーター大統領の37・4%ですが、バイデン政権はその次に低い39・8%です。これはトランプ前政権の42・0%よりも低く、オバマ前々政権の44・5%よりははるかに低いということになります。カーターもトランプも、再選に失敗しておりますので、この数字だけをみると、バイデンには黄色信号です。
 とはいえ、現時点での全米の世論調査はトランプ44・6%対44・2%で、統計上の誤差(3%)を考えれば、完全に互角であり、「ほぼトラ」というのは時期尚早です。トランプも弱点を抱えており、どちらが勝利するかは、現時点ではわからないほどの接戦状況にあります。
 大統領選挙を見ていく際には、全米の票の総計ではなく、各州の選挙人の総計(選挙人団制度)で決まるということを知っておく必要があります。例えば、2016年の大統領選挙の得票数は、トランプ候補62,984,828票(46・1%)に対して、ヒラリー・クリントン候補65,853,514票(48・2%)でした。総得票数ではヒラリーが多数だったにも関わらず、選挙人の数は、トランプ304人対ヒラリー227人で、トランプが当選しました。ですので、大統領選挙の結果は、全米の総得票数の票差ではなく、勝敗の帰趨を握る接戦州での勝敗が当落を決定します。
 接戦州のトランプ対バイデンの世論調査をみていくと、ウィスコンシ48・2%対47・2%、アリゾナ49・0%対44・5%、ジョージア49・4%対45・4%、ミシガン47・1%対43・9%、ペンシルバニア46・2%対46・3、ノースカロライナ48・4%対44・4%、ネバダ47・5%対44・3%と、全般的にトランプ優位とはいえ、統計上の誤差および州レベルの世論調査の精度が全米レベルより低いことを考えると、かなりの接戦であることがわかります。しかも米国の有権者がどの大統領選挙の投票先を真剣に考えるのは、9月を過ぎてからといわれており、現時点の世論調査をそのまま信じるわけにはいきません。
 このような接戦になった理由は、バイデンとトランプともに、決定的に強い候補ではなく、多くの弱点を抱え、それぞれの党内にも反対勢力を抱えていることにあります。民主党は、左派(サンダース上院議員ら)と中道(バイデン大統領ら)の二つに割れ、共和党は、保守強硬派(トランプ、フリーダム議連)、伝統的保守派(ヘイリー前国連大使)の二つに割れています。
 そして昨年10月以来のイスラエル・パレスチナ衝突において、3万人以上のガザ地区に住むパレスチナの民間人が死亡しているイスラエルの軍事作戦について、イスラエル支持のバイデン政権が、党内の反発を受けています。世論調査ではバイデン政権のイスラエル・パレスチナ衝突への政策の評価は、支持33%、不支持57%で、バイデンとトランプのどちらが良い政策を行うかについては、バイデン38%トランプ46%とトランプへの評価が高い状況にあります。
 しかも民主党内にはすでにパレスチナに同情的な左派と、強固なイスラエル支持派が混在するため、キリスト教エバンジェリカル(福音派)とユダヤ系右派による強固なイスラエル支持でまとまっている共和党に比べて不利です。
 特にパレスチナ支持の民主党左派の有権者は、予備選の間にバイデン大統領に「支持なし」票で抗議を表明しました。「支持なし票」は以下のような存在感を示しています。(ミネソタ18・8%、ミシガン13・2%、ノースカロライナ12・7%、ウィスコンシン8・3%、ネバダ5・6%)
 一方で、イスラエル支持ではまとまっている共和党も、トランプに反発する層は根強く、これらはニッキー・ヘイリー元国連大使に投票して存在感を見せています。(ニューハンプシャー43・3%、サウスカロライナ39・5%、ミシガン26・6%、ノースカロライナ23・3%、ウィスコンシン12・8%、バージニア35・0%(4頁へ)
(3頁より)、アリゾナ17・8%、ジョージア13・2%、フロリダ13・9%、オハイオ14・4%)。
 上記の棒線を付けた接戦州では、これらの造反を陣営に留めるために党内をまとめることと、まだ投票態度を決定していない無党派層をとりこむことが、バイデン・トランプ両陣営の最大の課題になります。バイデン陣営にとっては、ガザでのイスラエルの作戦継続による民間人の死傷者の拡大を止めることであり、トランプ陣営にとっては党内の反トランプ票を取り込むことです。
 今回の大統領選挙の特徴は、現職のバイデン、挑戦者のトランプともに、多くの弱点を抱えていることです。現職のバイデン大統領に対しては、高齢懸念、パレスチナでのイスラエル支援への反発、インフレと物価高、不法移民の流入増加、治安悪化に対する反発と懸念による逆風があります。
 一方トランプにとっても、大統領候補者としては史上初となる4つの刑事訴追を抱えていること、その裁判費用捻出のための資金不足、裁判に拘束されることでの選挙活動への制約、トランプ大統領が任命した最高裁判事による妊娠中絶禁止判決に女性票が反発するなどの逆風があります。
 接戦が予想されているため、独立系の候補がバイデンとトランプのどちらの票を食うのかという点も、着目しておく必要があります。現時点の他の候補も交えた世論調査はトランプ42・5%、バイデン40・8%、ケネディ(無所属)7・9%、ウェスト(無所属)1・4%、スタイン(緑の党)0・9%となっていますが、ケネディ候補はトランプ陣営が副大統領候補の可能性を検討するほど、トランプとバイデンの両方の支持層を食う可能性がありますが、他の候補はリベラルな候補なので主に民主党支持層が食われる可能性があります。
 トランプが政権に復帰した際のトランプ氏の政策ですが、かつて大統領時代に見せたディール指向がさらに強まると予想され、相手との駆け引きによってその政策が変わるので、明確な方向性は誰もわかりません。結局はトランプ氏自身の利益となる課題が最優先の政策となるでしょう。例えばウクライナ支援については、プーチン大統領への親近感、および「ウクライナ支援の停止」をディールの材料にした停戦交渉を成功させ、自らの業績にすることが考えられています。
 トランプ氏の優先課題は、自身にかかっている刑事訴追や民事訴訟を、大統領権限を使って無効化することです。ですのでウクライナでの外交実績などを理由に、自身に降りかかっている訴訟を「チャラ」にすることが考えられます。いうまでもなく、米国の世界での求心力は低下し、国際秩序は乱れるでしょう。だからこそ、世界は今年の大統領選挙の結果に注目しているのです。(終)
渡部恒雄様プロフィル
 笹川平和財団 安全保障研究グループ上席フェロー
 1963年福島県に生まれる。1988年、東北大学歯学部卒業、歯科医師となるが、社会科学への情熱を捨てきれず米国留学。1995年ニューヨークのニュースクール大学で政治学修士課程修了。同年、ワシントンDCのCSIS(戦略国際問題研究所)に入所。客員研究員、研究員、主任研究員を経て2003年3月より上級研究員として、日本の政党政治、外交安保政策、日米関係およびアジアの安全保障を研究。2005年4月に日本に帰国。以来CSISでは非常勤研究員を務める。三井物産戦略研究所主任研究員を経て、2009年4月から2016年8月まで東京財団政策研究ディレクター兼上席研究員。10月に笹川平和財団に特任研究員として移籍。2017年10月より上席研究員となり、2024年4月より現職。外交・安全保障政策、日米関係、米国の政策分析に携わる。
 2007年から2010年まで報道番組「サンデープロジェクト」(テレビ朝日系)のコメンテーターを務め、現在、「激論!クロスファイア」(BS朝日)、「深層ニュース」(BS日テレ)、「日経ニュースプラス9」(BSテレ東)、「報道1930」(BS-TBS)、「プライムニュース」(BSフジ)などで国際問題を解説。2010年5月から2011年3月まで外務省発行誌「外交」の編集委員を務め、現在、防衛省の防衛施設中央審議会委員。(笹川平和財団HPより抜粋)

令和5年度文化講演会『クライナ戦争の及ぼす世界情勢の動向 笹川平和財団上席研究員 渡部恒雄(高34回)

講演会の内容

  トランプ以後の世界秩序
・2021年1月6日、トランプ支持者が議会乱入。共和党支持者の40%以上は、バイデン勝利は不正と考え議会乱入を支持。
・トランプ支持者は、グローバル経済から取り残され、中南米からの移民労働者や、中国からの安価な輸入品に敵意を持つ。
・共和党はトランプ支持の保守強硬派(トランプ支持)と伝統的保守派(脱トランプ)、民主党は中道派(バイデン)と急進左派(サンダース)の4つに割れている。
・米国政府の分断、中国の台頭、グローバルサウスの影響力の増大は、米国の世界における求心力を大きく低下させ、今後も継続する。
・ロシアと中国は、米国の求心力低下と秩序の多極化は、自国の利益を拡大する好機と考えている。
・第二次世界大戦後の、米国の圧倒的な富と力の独占とその民主化イデオロギーが主導する世界は転換点を迎えつつある。
バイデン政権の三つの対中政策と二つのバイデンドクトリン(仮説)
・第一に安全保障と経済競争で将来に渡って米国の優位性を維持するために、同盟国・パートナー国との関係強化すること。具体的にはインド太平洋地域の経済秩序を維持するリベラリズムと、中国の軍事的冒険主義を抑止するリアリズム(勢力均衡策)。
・第二にグローバル経済の恩恵から取り残されたと感じ、自らの地盤沈下に不満と懸念を持つ米国の中間層にアピールするための「中間層のための外交政策」という保護主義と対中競争策。
・第三に欧州諸国や国内の民主党左派を対中対抗・競争路線に巻き込むための国際協調への復帰と人権と民主主義の重視。
・ドクトリン1「人権や民主主義という大原則は掲げながらも、米国の軍事力や経済力の相対的な低下を自覚して、現実にあわせた柔軟な姿勢をとる」
・ドクトリン2「国内の政治アジェンダと合致する外交政策を優先して取り上げる」
バイデン政権のインド太平洋への戦略思考
・バイデン政権の外交・安保の司令塔のジェイク・サリバン国家安全保障担当大統領補佐官とカート・キャンベル国家安全保障会議(NSC)インド太平洋調整官は、それまでのアメリカの対中関与政策(エンゲージメント)が、中国を国際ルールの規範を守る方向に誘導することに失敗したという認識を表明。
・「エンゲージメント政策の基本的な間違いは、それを通じて、中国の政治システム、経済、外交政策に根本的な変化をもたらせると思い込んでいたことだ」
・キャンベルとドーシNSC中国上級部長の新発想:米国単独の力の限界を理解して中国を取り囲む地域諸国とともに中国との勢力均衡(バランス・オブ・パワー)を維持し、地域諸国が米国とともに利益を共有するような秩序を作ることが目標。
ウクライナ侵攻への米国の戦略観
・バイデン政権のロシアへの姿勢は、同盟国を守るためには軍事力行使はためらわないが、それ以外への軍事力行使へのハードルは上げ、ロシアへの経済制裁への強化を中心にして、ロシアの行動に影響を与えていく方針。
・プーチン大統領は電撃的な首都陥落によりゼレンスキ―政権を崩壊させ、親ロ政権を作るという予定が大きく狂った。
・これは米国の開戦前からの軍事援助、米軍によるウクライナ軍への訓練、ロシア軍の作戦情報へのインテリジェンス協力、サイバー領域での協力など、手厚いバックアップなしには達成できないもの。
・サリバン大統領補佐官は、2022年4月10日のテレビ・インタビューで、ロシア軍のキーウ周辺での敗北は、ウクライナの果敢で粘り強い抵抗によるものだが、それを可能にしたのは米国と欧州の支援した兵器であり、我々はこれを誇りに思っており、支援を継続すると述べている。
・アフガニスタンとイラクでの米軍の戦闘に疲れて、内向き志向が高まっている米国の有権者が望まない米軍の直接介入という重いコスト負担を避けて、米国人の血を一滴も流すことがなく、これらの戦略を達成していることは、米国のロシアと中国に対する戦略的な立場を優位にしている。
・ロシアの今回の「軍事的冒険主義」を失敗に終わらせることは、中国の武力による台湾統一という「軍事的冒険主義」の重いコストを認識させるもの。
・今回のロシアのウクライナ侵攻に対して、欧州の同盟国だけではなく、日本を筆頭にアジアの同盟国とパートナー国との関係を強化するのは、ロシアに対する制裁を効果的にするだけでなく、台湾を睨み、中国に将来の軍事侵攻のコストの高さを印象付けて、軍事力行使のハードルを上げる狙いがある。
・ウクライナは米欧からの戦車および戦闘機の供与を受け、ロシアへの大規模な反転攻勢を始めているが、その成否は予断を許さない。
・ウクライナが成功するにせよ、戦局が停滞するにせよ、短期的な停戦は難しく、今後米欧が対ウクライナ協力を維持するための結束がカギとなる。
・来年の大統領選挙にむけてバイデン政権も内向きにならざるを得ず、一部の共和党強硬派と民主党左派の中に、ウクライナ援助継続に懐疑的な勢力がいるため、米国内の争点となる可能性がある。
対照的な米国の中東政策とインド政策
・バイデン政権は大統領選挙を睨み、米国内のガソリン価格を下げ、インフレを抑制することが至上命題であり、サウジ指導者のMBS(ムハンマド・ビン・サルマン)皇太子との間で、ワシントンポスト紙コラムニストのカショギ氏殺害をめぐる確執を収束させようと動き、原油の増産を期待してきた。
・昨年、10月5日には、サウジが働きかける形で、OPECプラスは、米国の働きかけに反して、原油生産量を日量200万バレル削減することを決定し、米WSJ紙の社説は、これを外交的屈辱と批判。
・昨年12月イスラエルでは、ネタニヤフ氏が収賄罪などで2019年に起訴された公判中の身で、イスラエル史上、最も保守的と評される連立政権を立ち上げた。
・ネタニヤフ政権は、国会が最高裁の判断を覆せるようにする司法制度改革案を提示したが、1月14日、これに反対する10万人以上のデモがテルアビブで行われ、イスラエルの民主主義への懸念も広がっている。
・ネタニヤフ政権は、以前にも増してパレスチナ自治区への強硬姿勢を強め、イスラエル・パレスチナ間での暴力の連鎖と緊張が高まっている。
・3月10日、サウジとイランは中国の仲介により、7年ぶりに外交関係の正常化に合意。
・バイデン大統領は昨年のサウジでの会議で「米国が立ち去って中国、ロシア、イランがその空白を埋めるようなことはしない」と発言してきただけに、米国の影響力の低下と中国の影響力の増加を象徴。
・6月22日、モディ首相は米国に国賓として招待され、バイデン大統領は、インドの人権侵害やロシアとの関係継続にはあえて目をつぶって、中国への対抗・競争のために、インドとの関係強化を強く訴えた。
・米印首脳会談が開かれているホワイトハウスの外では、インドのマイノリティやメディアへの弾圧への抗議デモが行われた。
・バイデン政権は、インドとの様々の協力で合意したが、米ゼネラル・エレクトリック社とインド国営企業によるF18ホーネット戦闘機用エンジンの共同生産に合意、米半導体大手のインド工場建設や供給網の多様化に向けた協力人工知能(AI)や宇宙分野でも協力を進めることに合意。
経済安全保障の動向
・中国は旧ソ連と異なり、世界第二位の規模の経済が、世界との通商、投資、技術協力などで繋がっているため、米国は「封じ込め」政策が取れない。
・米国は、中国が軍事技術において、米国が現在持っているような優位性を凌駕するような状況となることは避けたいため、軍事技術に関わる技術と人が中国に流れること(サイバー窃盗も含む)を制約しようとしており、安全保障上の理由から通商と投資を制限する経済安全保障政策を取っている。
・一方、中国は、かつて尖閣問題の報復として日本に対してレアアースの輸出を止めたり、コロナウイルス感染のオープンな調査を求めた豪州からの、大麦やワインなどの輸入を止めたりするなど、経済強制策も多用するようになっているため、サプライチェーンの見直しや、対抗としての経済安全保障政策が重視されている。
・中国が軍事的な優位性獲得のために投資していると目されるのが、AIや量子コンピューターなどであり、高性能の半導体が構成部品となる。自国で完結した半導体製造能力を持たない中国は、自前の能力獲得を急いでおり、米国はそれを制約しようとしている。
・2022年10月7日、バイデン政権は中国に対するAIと半導体技術の中国に対する新しい輸出規制措置として、米国企業がAIやスーパーコンピューター向けの先端技術を中国向けに開発・輸出する場合は事実上の許可制とすることを発表。
・10月12日、サリバンNSC補佐官はシンクタンクの講演で、我々は「small yard, high fence」(狭い分野、高いフェンス)を実行しようとしていると発言。
・2023年1月27日、日本とオランダは米国の先端半導体製造装置の対中輸出制限に歩調を合わせることで合意。この輸出制限が実施されれば、中国が自前の半導体産業を発展させることは一段と難しくなる可能性があると指摘されている。
広島G7の成果
・広島でのG7サミット(5月19~21日)は、被爆地広島でウクライナのゼレンスキ―大統領が、岸田首相とともに原爆犠牲者に献花し、核兵器の脅しと使用に懸念が集まるロシアに対抗する姿をみせたことに大きな意義があった。
・ロシアに中立の立場をとるインドのモディ首相、インドネシアのジョコ大統領、ベトナムのチン首相が、ゼレンスキ―氏と会談したことは成果だが、ブラジルのルラ大統領は記者会見で「ウクライナとロシアの戦争のためにG7に来たわけではない」と発言。
・G7では、中国に対して硬軟両方のメッセージが発信され、中国にロシアへの停戦を求める圧力に加わるように求めるなど、世界の秩序形成に積極的に加わってほしいという意志を伝え、経済安全保障政策でも、「デカップリング」ではなく「デリスキング」を指向するという文言で、中国の経済発展を邪魔する意図はないという姿勢を見せた。
・これは米中関係悪化の負のスパイラルを避け、中国との対話チャンネルを回復させようとしているバイデン政権の思惑を反映したもの。
・中国との共存を前提に外交を考えている欧州と日本などのG7加盟国の意図を反映させ、中国の行動を協調的に変えるための「建設的な圧力」と作り出す意図を持つものでもあった。
・米ワシントンポスト紙は、ゼレンスキ―大統領の参加により、バイデン大統領とG7が、民主主義と世界秩序への脅威となるロシアと中国に対抗する姿勢をはっきりさせることになったと評価。
・同紙は、マクロン仏大統領が4月に訪中して習近平主席との首脳会談で厚遇され、メディアに台湾をめぐり「米国にも中国にも引きずられるべきではない」という発言について、サリバン米国家安全保障担当補佐官の、「中国をめぐって米欧に乖離があるとは思っていない」という広島での発言も取り上げ、広島G7が中国をめぐる米欧の乖離を埋めるような役割も果たしたことを示唆
・同紙は、岸田首相が中露と関係の近い新興国や途上国を招待して対話の場を作ったことにバイデン大統領が感謝の発言をしたとも述べている。
・経済的強靭性及び経済安全保障に関するG7首脳声明「G7メンバー及び小規模なエコノミーを含む我々のパートナーに対して、要求に従い適合することを強制することを通じ、経済的依存関係を武器化する試みが、失敗に終わり報いを受けることを確保すべく協働していく」
・具体策は「重要鉱物に関する市場歪曲的な行為及び独占的な政策に反対し、強靱かつ強固で、責任と透明性のある重要鉱物サプライチェーンの構築の必要性を再確認」して「市場の混乱等の緊急事態に対する備えと強靱性を強化」すること。
大統領選挙に向け人気が低下するバイデン大統領
・ワシントンポストABC共同世論調査(4月28日~5月3日)で、来年の大統領候補はバイデン氏以外の人物を望むと回答した割合は、民主党支持者で47%、民主党を好感する層で58%、無党派層で77%。
・バイデン氏の強みはトランプ氏に勝てる資質を持つ唯一の候補というものだったが、来年の大統領選挙がトランプ対バイデンの構図の場合、45%がトランプに投票すると回答、バイデンの38%を上回り、バイデン対デサンティス・フロリダ州知事の場合でも、デサンティス42%対バイデン37%で、デサンティス優位。
・バイデン氏の人気低下の理由は、来年の大統領で81歳となる高齢と経済政策への不満。
・「正直で信頼できる」という点では、バイデン41%対トランプ33%だが、「大統領の執務を遂行できる健康」という点ではトランプ64%対バイデン33%と逆転。
・トランプ政権と現政権の経済政策の比較では、54%がトランプ氏のほうが良かったと答え、バイデン氏のほうが良いと答えたのは36%。
・共和党支持者と同党に好感を持つ層の中で、来年の大統領候補に好ましい人物を尋ねると、トランプ氏が43%とデサンティス氏の20%にダブルスコアで優位。
・ただし27%の共和党支持者が、好ましい候補に誰の名前も挙げていない。
・その背景には2020年の大統領選挙結果を否定し、セクハラなどの裁判案件を抱えるトランプ氏では、無党派層を取り込めず、本選で共和党が勝利できないとの懸念が根強いことがある。
・トランプ氏の過去の三つの問題、大統領選挙の結果を非合法的に覆そうとした事、機密情報の不適切な扱い、2021年1月6日の議会襲撃事件のいずれについても、過半数の回答者が刑事訴追を受けるべきだと答えている。
米国の動き
・ウクライナ情勢の戦況は予測できないが、来年の大統領選挙にむけてバイデン政権も内向きにならざるを得ず、一部ではあるが、共和党強硬派と民主党左派の中に、ウクライナ援助継続に懐疑的な勢力がいるため、内政上の争点となる可能性がある。
・昨年末から今年初旬にかけて欧州は歴史的な暖冬にも恵まれたが、ロシアからの天然ガス供給がほぼ止まった中、厳しいエネルギー事情は、今年のほうがより厳しくなると予想されており、米欧の対ロ連帯が試される展開になると予想されている。
・中露に対抗する米同盟国間の結束は継続すると思われるが、中露との関係を維持する「グローバルサウス」諸国への影響力は、米国の自由貿易政策や途上国支援政策に劇的な進展は期待できず、同盟国の欧州や日本にも余力がないため、大きな変化は期待できない。
・米中の緊張は継続するが、来年の大統領選挙前に経済を安定させたい米国と、ゼロコロナ政策からの経済回復を優先する中国の双方に、緊張緩和を指向する動機はある。
・5月16日、レモンド米商務長官は議会の公聴会で「米国の多くの雇用は中国との貿易に依存している」
・6月18日、ブリンケン国務長官が訪中、習近平主席と会談、7月7日、イエレン財務長官が李強首相と会談。懸案の軍同士のコミュニケーションチャンネルの確保は達成できなったか、閣僚級の対話のラインを作ることが両国の狙い。
・ただし米中ともに、来年1月には台湾総統選挙も行われ、台湾をめぐる米中の緊張関係も継続する。
日本の戦略
・冷戦下では、ソ連に対抗する最前線は欧州にあり、日本は安全保障上、これまで米国の軍事力に依存し、自らの軍事力行使について過度な制約を課して思考停止をしてきた。
・日本は米中対峙の最前線に位置することになった。
・日本は米国の対中戦略にとって、なくてはならぬ存在となった。これは大きな資産。
・米中対立が戦争にエスカレートすることを防ぐためのバックチャンネルを日中間で作る必要がある。
・国際秩序の維持を米国で支えることができない以上、世界の米国の同盟国とパートナーが支えていく構造に転換していく必要がある。
・日本は軍事上で米国への過度な依存を減らして自らの防衛力強化でグリップを持つ一方、中国経済への過度な依存も見直す必要がある。
・中国に対して、完全なデカップリングをするのではなく、過度な依存によるリスクを減らすようなデリスキングとして、サブライチェーンを見直すこと(懲罰能力では拒否能力を持つ)。
・米国自身、中国経済を完全にデカップリングできないため、軍事的なバランスを逆転させかねない機微な技術に絞って、選択的なデカップリングを続ける。
・経済の裏打ちがなければ、持続的な安全保障政策は望めない。安定した国際環境ぬきには持続的な経済成長は望めない。
・日本の防衛戦略は、中国の軍事力行使のハードルを下げないように軍事力を整備し、日米同盟を維持するための拒否能力(反撃能力)を持つこと。
・日本の防衛産業と軍民両用技術の開発の双方を強化して持続的な経済発展につなげること。
・日本が既存の外交路線を続けるためには、反撃力の保持による拒否的抑止能力が喫緊に必要である。
・台湾有事の際、中国は日本に対して、台湾および米国の支援をさせないために、軍事的な脅しをかける可能性があり、現在のままでは、それを拒否するための軍事的および政治的なハードルが高い。
・日本が通常弾頭の中距離のミサイルを持っていることで中国を恫喝の効果を削ぎ、「積極的拒否戦略」を取ることができる。
・もし台湾有事の際に、米国への協力ができない場合は、日米同盟の形骸化を招き、日本の安全保障にとって、より深刻な事態をもたらすことになる。
・スタンドオフ・ミサイルを運用していくためには、ミサイル迎撃同様、日本および米国との目標の情報収集・分析機能、と指揮統制機能、および統合運用の強化を要求するものであり、日米のこれらの機能の緊密な運用が前提となると考える必要があるだろう。(終)

令和4年度文化講演会『ウィズコロナ時代のポジティブ健康心理学~ 体とこころと幸せと ~ 神奈川大学保健管理センター長 江花昭一(高23回)

講演会の内容

 新型コロナの第6波は落ち着いてきているが、再び悪化したり第7波が襲ってきたりするかもしれない。なかなか「ゼロコロナ」にはならず、しばらく「ウィズコロナ(コロナとの共存)」で過ごさざるをえない。今回は、「ウィズコロナ時代」の乗り切り方としての「くじけない心」「へこたれない心」についてお話ししたい。 新型コロナの3つの顔とコロナストレス
 「コロナストレス」について考えるとき、日本赤十字社がまとめた「新型コロナの3つの顔」という考え方が参考になる。3つとは、病気の顔、不安の顔、偏見・差別・排除の顔である。  第一の病気の顔については、言うまでもないが、第二の不安の顔はどうだろうか。新型コロナはウイルスなので姿が見えない。それだけでなく、ワクチンが普及し、重症化予防の薬も出てきたが、予防や治療の正解が不十分にしかわからないのも不安材料である。外に出て人と触れ合うのも不安なので、引きこもりがちになり、気分転換もままならない。このような不安の顔は、まるで感染するように人から人に伝わっていく。  第三の偏見・差別・排除の顔も深刻だ。人は不安になると、つかの間でも絶対的な安心を求めたくなる。そのような防衛ができないと、できない自分を責める罪悪感が生じ、それが外に向くと、偏見や攻撃心となる。感染に関わる人を「見える敵」として差別したり、自分の生活圏から排除したりするようになるのである。この偏見・差別・排除の顔も、まるで感染するように伝わる。これから逃れようとして、症状があっても隠そうとし、受診や検査をためらったり、黙って出勤したりする人もいて、結果としてウイルス感染を拡大してしまう。  新型コロナの3つの顔はつながって、病気が不安を生み、不安の防衛が偏見・差別・排除を生み、それがウイルス感染拡大につながる、という負のスパイラルを作る。この悪循環がコロナストレスの正体ではないか。
ウィズコロナの知恵を持とう
 ウィズコロナの時代を乗り切る知恵や秘訣があるとすれば、それはどのようなものだろうか。

①正しい知識を取り入れる
 筑波大学災害地域精神医学教室の調査によれば、一定の人が有効なストレス対策として「新型コロナに関する正しい情報を取り入れる」との回答を選んでいた。具体的には、マスコミやネットの不正確な情報に惑わされず、根拠がある確実な情報を取捨選択する。白か黒かという絶対を求めず、程度問題・確率論で考える、などが重要である。
②運動・食事・睡眠・仕事の日常のリズムを崩さない
 さらに、有効なストレス対策として、「これまでと同様の生活リズムを維持する」「適度な運動をする」「食事を3食とる」「十分な睡眠をとる」と回答していた人が多かった。重要なのは、運動・食事・睡眠、それに仕事(作業)を加えて、日常生活のリズムを崩さないことである。これはもちろん身体面にも有効だが、ストレス対策にも役に立つ。
③交流を維持し、深める
 最も重要なメンタルヘルス対策は、なんと言っても交流である。筑波大学の調査結果では、「自宅でできる活動を楽しむ」だけでなく、「親しい人と話す」「周りの人とねぎらい合う、励まし合う」が有効な対策であった、とされている。ただし、ウィズコロナの時代なので、交流の仕方を工夫し、距離をとって対話をする、ズームなどの通信機器を通して交流を深める、などの注意も必要である。
ウィズコロナの知恵としてのポジティブ健康心理学
 心理学の世界では今、ネガティブな物の見方がポジティブな物の見方に大きく置き変わっている。これまでは、どうして具合が悪くなるのかという原因を分析して対策を立てる、と考える心理学が主流であったが、はじめから解決や幸せな人生を手に入れる心理学に変わってきているのである。  ポジティブ心理学は「本物の幸せ(人生の満足)」を直接手に入れようとする心理学で、そのために、ポジティブな感情を手に入れる、生の充実感を手に入れる、人生の意味を確かめる、という内容で構成されるものである。その3つからポジティブな健康(ウェルネス)も作り出される、と考えるのである。さらに、幸せはどのようにして持続させることができるかについて研究し、まずこれまで何事かを達成してきた人生であることを確認し、これからも達成する人生を送ること、同時に、人とポジティブな関わりを持つことがとても大切であることを明らかにした。また、いずれにおいても自分の「強み」を確認し、活用することが重要であることも明らかになった。言い換えると、自分の強みを活かしながら、人との関わりの中で、人は何かを達成しながら幸せな人生を送るのである。  ウィズコロナ時代では、①先が見えなくても「なるようになる」と考える。そして「それはそれとして(コロナはコロナとして)」、②自分の強みを活かし、今、自分が大事にしていることに集中し、「できることをする」。③人とのつながりを大事にし、「していただいたこと、していただいていること」に感謝し、「できることをしてあげる」。当たり前の話だがこれらが「くじけない心」「へこたれない心」のために、今大切な知恵ではないだろうか。

江花昭一氏のプロフィール

会津高23回生。耶麻郡塩川町(現喜多方市)出身。医学博士、神奈川大学保健管理センター長(産業医、学校医、診療所長)。専門は内科、呼吸器科、心療内科、メンタルヘルス。1981年東北大学医学部卒、仙台社会保険病院病院内科研修の後、1983年に日本大学第一内科入局・助手(呼吸器科、心療内科)。1990年東松山市立市民病院内科(呼吸器科)医長。1991年横浜労災病院心療内科副部長、2001年部長。2011年から現職。日本大学医学部非常勤講師兼任。著書に「心療内科の時代」(筑摩書房)、「虐待・いじめ・不登校の交流分析」(岩崎学術出版社)などがある。

平成31年度文化講演会『会津と宇宙の深い関係 国立天文台副台長 渡部潤一(高31回)

講演会の内容はこちらをご覧ください

平成30年度文化講演会『日本の外交・安全保障戦略を考える 笹川平和財団上席研究員 渡部恒雄(高34回)

講演会の内容

外交・安全保障戦略とは将来の世代まで見通した日本の生存、繁栄、尊厳を維持することで、私は自分の孫の世代が今と同じように、平和で、豊かで、幸福に暮らせるために必要なことは何か?と考えてようにしている。そのためには、日本の持続可能な安全保障と経済発展を維持する必要がある。現在の世界的な自由経済と安全保障を支えている秩序を、インターナショナル・リベラル・オーダーと呼び、第二次世界大戦後、米国と同盟国が中心となって維持してきた。しかし、オバマ政権は世界の警察官にはならないと宣言し、トランプ政権は、「アメリカ・ファースト」を唱えて、これを支えることには興味がない。米国がソフト・パワーを失いつつある中、中国やロシアというリビジョニスト勢力の影響力が増している。日本はこれを支えるために知恵を絞る必要がある。 トランプ政権は、昨年夏から今年の2月ぐらいまでは、現実的な政策に回帰していた。2017年12月に発表された国家安全保障戦略は現実的なもので、「同盟国とパートナーは我々の力を強くする」という伝統的な同盟観は米国内外の専門家や同盟国から評価された。 しかしホワイトハウス内で静かな影響力を持っていた現実派のロブ・ポーター秘書官が、前妻への虐待の報道によって辞任し、愛娘イバンカ氏のモデル仲間で大統領の信頼を得ていたヒックス広報部長も辞任。さらに、ポーターの過去を隠蔽しようとしたケリー首席補佐官も批判され、大統領からの信任も低下し、これまでトランプ大統領をコントロ―ルしてきた規律は失われた。 ナバロ通商製造政策局長らの経済ナショナリストが説得して、3月8日、鉄鋼とアルミニウムに輸入に追加関税を課して輸入制限の発動を命じる文書に署名。この決定は世界経済の成長を支えてきた自由貿易体制を大きく損なうもので、経済の司令塔のゲーリー・コーン国家経済会議(NEC)委員長が辞任した。しかし、中間選挙での勝利と2020年の再選を優先するトランプ大統領は、保護主義を強め、将来の技術的な優位を懸念する中国に対しては貿易戦争を開始した。 また、北朝鮮との首脳会談も、大統領主導で決定された。これまで現実的な視点からトランプ大統領に異論を唱えることもあったティラーソン国務長官やマクマスター国家安全保障担当補佐官が解任され、米朝首脳会談の準備をしてきたポンペオCIA長官が国務長官に、タカ派のボルトン氏が国家安全保障担当補佐官に起用され、イエスマンが取り囲むトランプ大統領の「唯我独尊」体制が出来上がった。6月12日、米朝首脳会談がシンガポールで開催されたが、共同声明には非核化への具体的な道筋が示されず、今後の実務レベルの協議の進展をみなければ、どこまで北朝鮮が非核化に動くのかはわからないという内容に終わった。 トランプ大統領の北朝鮮への姿勢を理解するには、トランプ氏の政治上の優先課題を考える必要がある。大統領の最優先事項は、北朝鮮との首脳会談を実現し、短期的に見栄えのする前向きな成果を上げることにある。当面の目標は、11月の中間選挙で共和党を勝利させ、自身の弾劾裁判を回避し、自らの政権の正統性をアピールすることだからだ。トランプ大統領の心理を裏付けるのが、6月4日に同氏がツイッターで示した、モラー特別検察官が進めるロシア疑惑の捜査について、捜査は「違憲」であり、いかなる罪に問われても自らを恩赦する「絶対的な権限」が自分にはあるという主張だ。トランプ大統領は3000人の恩赦を準備していると発表。米朝首脳会談での成果をノーベル平和賞級と訴えることで、自身への恩赦の理由にもなる。 トランプ大統領は、同盟の価値をまったく理解していない。北朝鮮の非核化の費用は日韓が負担すると発言し、それが国内向けの政治的得点だと考えている。個人的に相性がいい指導者が、同氏にとっての重要国であり、トランプ大統領は6月7日の日米首脳会談後の記者会見でも、米朝首脳会談で拉致問題について言及することを確認したが、それは日本との同盟を重視しているからではなく、個人的に安倍晋三首相が好きだからだろう。その意味で、安倍首相とトランプ大統領との個人的な関係は、日米同盟だけではなく、世界の秩序維持にとっても重要な意味がある。 トランプ大統領の目標は、あくまでも自らの政治的生き残りにあり、その目線は限りなく内向きで、近視眼である。日本は、日米同盟維持以外に選択肢がない以上、トランプ大統領が取り返しのつかない破壊を国際秩序にもたらさないようなダメージコントロールとヘッジ策が必要となる。例えば、日本政府が国家安全保障戦略で打ち出した「積極的平和主義」の一環として、インド・太平洋地域での安全保障のための公共財をオーストラリアやインド、東南アジア諸国と協力して負担していくことは重要だ。また、米国が離脱した後のTPP11を日本が主導していることは、東南アジアやラテンアメリカ、欧州からも評価されており、日本が外交的な体力をつけるにはいい機会である。(終)

渡部恒雄氏のプロフィール(高34回生)

1963年、福島県田島町(現南会津町)に生まれる。県立会津高校卒(高34回)。1988年、 東北大学歯学部卒業。歯科医師国家試験合格後、社会科学への情熱を捨てきれず米国留学。1995年、ニュースクール大学(ニューヨーク)で政治学修士課程修了。同年、ワシントンDCのCSIS(戦略国際問題研究所)に入所。客員研究員、研究員、主任研究員を経て2003年3月より上級研究員として、日本の政党政治、外交安保政策、日米関係およびアジアの安全保障を研究する。

平成29年度文化講演会『恋する会津』 作詞家、日本作詩家協会常務理事 石原信一(高19回)

講演会の内容

1)はじめに  「あなたにとっての会津とは」、これが以前朝日新聞福島版に1年半連載されておりましたエッセイ「恋する会津」のテーマです。これを一冊の本のまとめ、2010年に歴史春秋出版より「恋する会津」として出版致しました。今日はそれぞれの歌を聴いて頂きながら、皆様にとっての会津を思い出して頂ければと思います。

2)AIZU その名の情熱(会津若松市イメージソング)  生まれ育った会津の思い出が私の作詞のベースになっています。会津と聞くだけで背筋が伸びるように、故郷会津のDNAは皆様の中にそれぞれ生きていると思います。私は作詞家になって今年で43年ですが、実は1999年までは会津のことを歌にはしておりませんでした。なまじ会津のことを簡単に書けないというのがあったかもしれません。  ところが会津の市制100周年である1999年に、市よりイメージソングの製作の依頼があり、覚悟を決め「AIZU その名の情熱」を作詞し、作曲と歌は南こうせつさんにお願いして曲を創りました。同11月には彼も参加して会津で記念コンサートも開催されました。また南こうせつさんには、あの2011年3月の東日本大震災の時に「会津のために何かできないか」という話を頂き、会津風雅堂においてノーギャラ、交通費も自己負担で1700名の無料コンサートが開催されました。熊本生まれの彼の気持ちは大変うれしく思います。

3)約束の少年(あいづデスティネーションキャンペーン・テーマソング)  「AIZU その名の情熱」の作詞をしながら、この歌は皆様への問いかけではないかと考えました。それでは「自分にとっての会津は何なんだろう」、「なぜ会津は愛おしいのだろう」、自問自答しながら会津の歌創りが始まりました。  そんな中会津の路上ミュージシャン千代竜太さんと民謡会津磐梯山の世界一となった本田華奈子さんと出会い、この2人とユニット「ナスカ」を作りました。そこへJRの大型観光誘致事業で「あいづデスティネーションキャンペーン」のテーマソング作成の依頼があり、彼らとやってみようと思いました。  創作にあたって、まず会津とは何かと考えた時に、真っ先に「約束」という言葉が浮かびました。「約束」という言葉は、戊辰戦争の松平容保の大君に対する約束、野口英世の医学者となる約束にある様に、会津の中で脈々と生きて続けていると思います。これは「ならぬことはならぬ」という約束を、会津藩の什の掟として教えられ、小さい時から育まれたものであり、会津のキーワードとも言えると思います。  また私が約束にこだわるのは祖父の影響もあると思います。会津中学の教師だった祖父は終戦の日に戻り、それまで軍事教練の先生をしていたので戦場で散った教え子の為にも自決しようとしましたが、皆に止められ、それからは晴耕雨読の生活で俳句と畑を耕していました。当時まだ4、5歳だった私は祖父と一緒に句会にも参加し拙い句を詠んでおりましたが、それが私を作詞の道へ踏み込ませた第一歩だったかもしれません。また祖父には約束「ならぬことはならぬ」ということを徹底的に教えられました。そういう意味でこの詩を書いたのは祖父だったとも思います。

4)紅立葵  7月は会津若松市の花、立葵の季節です。葵は松平家の紋所であり色々な色を付けます。真っ赤な立葵があり、それと会津の少女の恋心を重ね創ったのが「紅立葵」です。実は「紅立葵」という言葉は造語で、真っ赤な立葵を「紅立葵」と名付けました。  昔の会津の女性は厳格な家庭で育てられたイメージがあり、恋をした少女はそのことを家族に話すだろうか、家の娘としての自分と恋をしている自分、「家」と「恋」という真逆の中で揺れ動くそんな会津の女性をテーマにした曲です。私は厳格な家庭で会津の娘らしく生きる女性も好きですし、恋に走る女性も一途な会津の女性らしく良いと思います、この曲を聴きながら真っ赤な立葵を想像して頂けるとうれしく思います。

5)越冬つばめ  最後は皆様ご存知の森昌子さんの越冬つばめです。この曲は大変苦労しましたが、候補35、6曲の中から本人が直接選んだ曲で、数々の賞を頂き、その年のNHKの紅白でも歌われました。よく「越冬つばめ」はどこにいるのかと聞かれますが、実は私は見たことがなく、私の記憶の中で飛んでいるつばめを書いております。  それは古い記憶で私が4、5歳の頃、会津で母の膝の中で読んでもらった絵本「幸せの王子」の中のつばめです。物語はある町に立派な銅像が建っており、一羽のつばめが旅の途中その足元で休んだことから始まります。つばめは王子に「町の恵まれない人に自分の宝石や金箔を剥がして届けてほしい」と頼まれ、剥がしたものを毎日届けそれらがなくなると王子の目のエメラルドまで剥がして届けました。そしてつばめは最後に力尽きて王子の足元で死んでしまう話です。私はいつもつばめが死んでしまう場面で泣いてしまうのですが、この絵本が好きで何度も繰り返し母親に読んでもらいました。またこの絵本には続きがあり、ボロボロになった王子の銅像は溶鉱炉へ投げ込まれたが、溶けない部分がありそれは王子の心臓でした。その心臓はゴミ箱に捨てられ、同じく死んで捨てられたつばめと最後に一緒になるという話です。  私はつばめが王子に恋をして、無償の愛で王子の役に立ちたい、貧しい人の為に何かしたいとまさしく身を呈して義を貫いたつばめの話だと思っています。これを曲にしたのが「越冬つばめ」です。「越冬つばめ」は子供の頃会津で母親に聞いた絵本の中のつばめで、それはずっと今でも飛び続けています。そして私にとってこの歌は正に会津の歌なのです。またこれは身を呈して義を貫いた白虎隊、殿様ではないかと思ったりもします。だからこの曲は会津で何時も泣いていた私の中のDNAが書かせたものだと思っています。

会津に対するDNAは皆様の中にもあり、それぞれが作用して会津を忘れずに帰ったり、懐かしんだりするものだと思います。「恋する会津」は会津のDNAが呼びかけてくれる大切なもののような気がします。

石原信一 プロフィール(高19回生)

1948年福島県会津若松市生まれ。会津高校、青山学院大学卒業後、放送作家等を経て作詞家になる。1978年には、ビューティペアの「かけめぐる青春」で日本レコード大賞企画賞を受賞。同じ年、太川陽介に提供した『Lui-Lui』が同年の第19回日本レコード大賞新人賞を受賞。1983年、森昌子の『越冬つばめ』で日本作詩大賞優秀作品賞を受賞。現在は、一般社団法人 日本作詩家協会 常務理事。

平成28年度文化講演会『音楽を通しての人間教育』 エル・システマ室室長 佐藤正治(高21回)

「共に奏でる」をキーワードに音楽の素晴らしさを話される佐藤講師

 平成28年度在京会津高校同窓会文化講演会は、エル・システマ室 室長 佐藤正治(高21回生)を講師として7月6日(水)午後6時よりグランドヒル市ヶ谷において開催されました。佐藤正治氏は1975年一橋大学社会学部を卒業され、畑違いの梶本音楽事務所に入社。 1999年4月より取締役副社長として活躍されています。主に海外アーティストの招聘および日本制作企画の海外提供などを担当されておられる方です。演題は『音楽を通しての人間教育』、「PLAY TOGETHER」をキーワードに、鶴城小学校での音楽との出会いから犯罪等から遠ざける力を宿す音楽を多方面で発信し活躍されている様子を淡々と話をしてくださいました。講演を聴いた人は、音楽の持つ力を見直すことや音楽に親しむきっかけがつかめたのではないかと思います。講演の内容の要旨は下記に記載したとおりです。詳しい講演内容については11月発刊される在京会高同窓会報に掲載される運びとなっています。
 1)KAJIMOTO 入社前
    小学校での音楽との出会いは劣等感を持つことから始まった。
    それが中学からオーケストラに加わり、市民オーケストラでの劇的デビュー。
    水泳と音楽を両立させていた当時、オリンピック選手も夢見る。
    大学オーケストラに参加、ウイーンフィルのホルン奏者を目指す。
 2)世界的ピアニストマルタ・アルゲリッチとミュージック・アゲインスト・クライム
    音楽は人を愛する気持ちを助長させ、人を殺める気持ちを萎えさせる。
    小学校等でのアウトリーチの実践とその限界。
 3)エル・システマとの出会い
    2005年南米ベネズエラでホセ・アントニオ・アブレウ博士に出会う。
    犯罪と貧困で希望を失った子どもたちを音楽で救うエル・システマの現場を視察。オーケストラは社会の縮図、それゆえ合奏の中から社会性を備える子供たちを育成する。
 4)広島 とMusic for Peace
    天皇皇后両陛下ご臨席
    NHKTV全国放送
    広島交響楽団平和音楽大使アルゲリッチと2020年の広島国際平和オーケストラ構想
 5)PLAY TOGERTHER について
    楽しいオーケストラと高齢者のオーケストラ
    漢字文化圏オーケストラ
 6)終わりに
    寛容さを育てる
    PLAY TOGETHER PLAY TO GET HER ?

「東京閣」貸し切りで盛り上がった懇親会

 講演会は午後6時~7時まで1時間開催され、参加者は70名でした。その後、ホテル西館「東京閣」に場所を移し懇親会が開催され61名が参加しました。石田会長の講演御礼を含めた挨拶の後、佐藤講師と同級である21回生を代表して佐藤孝一さんの乾杯で懇親会が開始です。21回生は20名の参加で同期の繋がりの強さを感じた次第です。貸し切りの会場でたいへん楽しく賑やかに会が進み、予定された時間(午後9時)になっても盛り上がっていたため「東京閣」が時間延長のサービスをしてくれたほどです。名残尽きない中、大越事務局長の中締め、予定にはなかった高校12回生の長沼種臣氏の指揮による校歌斉唱、応援団長を務められた高校15回生の鈴木忠正氏によるエールでお開きになりました。同窓の仲間でいい時間を共有できました。

佐藤正治氏(さとうしょうじ)プロフィール(高21回生)

1969年会津高校卒業。浅岡賞受賞。
1975年一橋大学社会学部卒業、同年梶本音楽事務所(現KAJIMOTO)に入社。
1999年4月より取締役副社長、2004年11月より取締役シニア・ディレクター、2008年4月より同社プロジェクト・アドバイザー。
主に海外アーティストの招聘(チェリビダッケ、ショルティ、メニューイン、セゴヴィア、ミケランジェリ、グルダ、アルゲリッチ、ポリーニなど)および日本制作企画の海外提供(ルツェルン、ワルシャワの音楽祭など)を担当。
○1997年ドイツ連邦共和国政府から依頼を受け、日本の皇室と政財界VIPを招いた国賓ヘルツォーク大統領主催のコンサートのプロデュースを担当。
○日本の学校内での青少年の犯罪が多発しはじめた1998年、ピアニスト、マルタ・アルゲリッチとともにMusic Against Crime(人を犯罪から遠ざける力を宿す音楽)という理念のもと、2000年秋から来日音楽家による学校や特別養護施設、老人ホームなどへの訪問演奏(アウトリーチ活動)を実施。その多くの音楽家が文化庁文化交流使に任命される。
○2002年2月文化庁長官官房国際課に招かれ、「音楽における国際交流の現状」について講義を行なう。
○2003年6月、スイスの「ゲザ・アンダ国際ピアノコンクール」審査員。
○2005年イタリア政府(チャンピ大統領)よりコメンダトーレ勲章を受章。
○同年前橋汀子演奏会に臨席された皇后陛下の御相手役を務める。
○同年1月に実施したマルタ・アルゲリッチを中心とした「グルダを楽しく思い出す会」の企画が翌年のワルシャワで開かれた「Festival Chopin and his Europe」に取り上げられた。主催者Chopin Instituteの依頼を受けProject Coordinatorを担当。
○同年12月ベネズエラに出張、エル・システマ創設者ホセ・アントニオ・アブレウ博士や指揮者ドゥダメルと会談。(現在までベネズエラには5回出張。)
○2006年1月~6月、東京新聞と中日新聞に24回のコラムを連載。
○2008年ベネズエラのシモン・ボリバル・ユース・オーケストラを日本に招聘。
○2009年4月朝日新聞オピニオン面「私の視点」に「エル・システマ オーケストラ特区試しては」を掲載。
○同年7月31日NHK BS「きょうの世界」にゲスト出演。
○同年メンデルスゾーン生誕200年記念音楽ドキュメンタリーテレビ番組(山口智子主演)の監修を務める。
○2010年「企業メセナの理論と実践」(水曜社)編集・執筆。
○同年4月KAJIMOTO「エル・システマ室」を新設。
○2009年ポーランドの文化大臣Bogdan Zdrojewskiより「CHOPIN 2010 Celebrations Committee」の委員に任命され、2010年の第16回ショパンコンクールの優勝者、ユリアンナ・アヴデーエワを受賞の45日後に日本に招き、NHK交響楽団との共演とリサイタルを実現した。
○2010年マルタ・アルゲリッチによるショパン・シューマン生誕200年記念コンサートを東京で実現、そのライブ録音を東日本大震災復興支援チャリティCDとして発売、1400万円以上の売り上げを被災地の音楽関係者に寄付した。
○2015年3月朝日新聞オピニオン面「私の視点」に「東京五輪 日本の魅力を第九で」を掲載。
〇同年第17回ショパンコンクール優勝者チョ・ソンジンを招き、NHK交響楽団定期演奏会や、東京、上海、広州、北京でのリサイタルを行った。
○これまでに一橋大学および同大学院、長崎大学、昭和音楽大学、桐朋学園短大、上海音楽院、国立音楽大学、東京大学、東京藝術大学で客員講義を行なう。
○ショパンコンクールの入賞者ピアニスト達のマネジメントを通じてポーランドとの交流を続けており、特にマウリツィオ・ポリーニとマルタ・アルゲリッチとは30年以上の協力関係を続けている。

平成27年度文化講演会『健康長寿と生涯現役でいこう、ピンピンコロリの法則』首都大学東京大学院名誉教授 星旦二(高23回)

1.健康規定要因

 ロンドン大学留学中に「なぜ日本人の平均寿命は延びたのか」と訊かれました。私が医療とかいろいろ言ったところ「違う」と反論されました。ロンドン大学の先生たちは、「きっと明治維新の時代に、読み書きそろばんを全ての国民ができたのは日本しかありませんでした」ということでした。「国土が全部緑に囲まれているのも日本しかありません」とか「経済力も大きい」ということも議論になりました。日本人の勤勉さであるとか、仏教であるとか、いろんな要素が重なり合って、この今の長寿国を支えているのではないか、こう考えています。
 かかりつけ歯科医師がいて、BMIが高く、コレステロールが約250mg/dl以上の人が最も死なないということをご存じですか。杉並・世田谷と、足立・葛飾では、どちらのコレステロールが高いでしょうか。杉並・世田谷です。コレステロールが高いから血管の壁が丈夫で、破裂しなくなったのです。肌がきれいで、腰が曲がらなくなったのは、ビタミンDの材料がコレステロールだからです。がんの免疫細胞の材料でもあります。

2.なぜ長野県は長寿なのか

 成人の死亡率が青森県の半分しかないのが長野県です。肝臓がんの死亡率が、なんと全国より男女とも4割も少ないことが分かりました。肺がんの死亡率も全国で最下位です。喫煙率も最下位です。医療費は全国最少の県の一つです。
 寝たきりをどうやって減らすかは、入院を最小にして、基本的に高齢者にはしっかり働いていただくことが、結果的に寝たきりを減らすのではないかということです。長野県から学んだキーワードは「最期の日まで長靴を履いていたい!」です。

3.生涯現役研究

 1986年にスウェーデンなどを訪問した時のことです。ちょうどその頃は“大きな施設に集団で”という考え方を変えている時期でした。そこで「次なる課題は何でしょうか。」と尋ねたところ、「それは決まっているだろう。今まで、スウェーデンがやってきことは寝たきりの後追いであった。これから大事なことは、寝たきりの発生予防である。」という答えが返ってきました。「ではどうすればいいのすか」と訊くと「それは簡単だよ。口紅・化粧・身だしなみだ」と言われたのです。
 全国の16の市町村にお願いして、そのまちの高齢者全員をずっと追跡調査しています。「買い物に行く人」は長寿だと思いますか。追跡したところ、何と「買い物に行く人」はほとんど死なないのです。「健康だと思う人」は人は、2万人二年間で20人しか死亡しませんでした。ところが「健康じゃない」と思っている人は340人が亡くなりました。
 WHOがスピリチャル・ヘルスに応用したデータと全く同じ結果でした。
 多摩市13,000人の追跡データですが、ほとんど毎日外出する人は生存が維持されます。ところが滅多に外出しない人は、大体3割近く生存率が落ちてしまいます。口紅・化粧・身だしなみが重要のようです。「是非、嫁に渡した財布を取り返していただきたい」。これが本日のメッセージです。

4.世界の健康支援動向

 世界の健康政策の大きな動きとしてヘルシーシティーとか、ヘルシーカンパニーとか、ヘルシースクールがあげられます。非常に驚くのは、これを大統領や首相自らが先頭に立って頑張っているということです。もうひとつの大きなポイントは、今世界が一生懸命取り組んでいるのは、笑うとか、ヨガとか、エステとか、森林療法とか温泉療法です。最も利用しているのは、高学歴、高社会階層です。
 世界の大きな流れはインフォームド・チョイス(Informed choice)であり、ペーシェント・ファーストです。そして健康の政策を優先課題にする、これが世界の大きな流れだと、思います。何よりも、徹底した予防、つまりゼロ次予防です。年に1回の検診より、毎日のモデルが必要です。大切なことはネガティブな発想よりも、もっとポジティブな発想です。高齢者のあら探しをして喜んでいる場合ではないのです。
大事なことは、楽しく前向きに生きるということだと思います。障がいがあったら、みんなで支える。こういう発想です。皆さん、ご夫婦だと年金を1年間で300万円以上もらえるはずですから、25年から30年近くもらえれば、累積1億円になるわけです。
 最後のまとめです。早世予防と健康寿命を延ばすこと、これが今日のテーマでした。WHOは、もちろん医療も大事であるが全ての分野と手をつなぐことを提案しています。私は、もう少し健康政策を重視する話だとか、健康を支援する環境を整備しようという話だとか、口紅・化粧・身だしなみ、そして財布を握りしめ、他人には渡さないということも是非加えて欲しいと思っています。
 今日の話のいくつかが、私のホームページからダウンロードできるようになっていますのでご覧下さい。また、ワニプラス出版から、「ピンピンコロリの法則」という本も出ていますので機会があったらお読み下さい。
【星 旦二氏のプロフィール】

平成26年度文化講演会『戦場記者が見てきた世界』NHK解説主幹 柳澤秀夫(高24回)

 子供の頃、火災があるとサイレンの音で血が走り現場へと駆け出し、とんでもない遠くまで行ってしまったこともあります。早い話が野次馬でした。これが記者生活37年の原点です。NHKに入局し初任地は横浜でした。警察担当として“サツ回り”に精を出し、特ダネを求めて「夜討ち朝駆け」もやりました。夜、警察官の自宅で帰りを待ち、帰宅を確認して訪ねるのですが、毎度門前払い。雨の中で待ったこともあります。傘を使うか、ずぶ濡れで待つかで相手の対応に差がありました。ある時、ずぶ濡れで待ったのですが、玄関の隙間から「ずぶ濡れじゃねぇか。ま、入れ」ということになり、それをきっかけに親しくなり、「泊って行け」という間柄にまでなりました。この方とは今も年賀状のやり取りが続いています。身をもって信頼関係の大切さを知り、記者生活の糧となっています。
 その後、沖縄に転勤。イランのイスラム革命があった79年で、学生によるアメリカ大使館占拠事件が起きました。沖縄は中東とは関係ないと、のんびり構えていたのですが、嘉手納基地内の機関紙に救出作戦に向かった特殊部隊の犠牲者を悼む記事が報じられたのを見て、極東という枠を超えた戦争の現実を知りました。これが戦場記者の始まりだったのかもしれません。その後東京の外信部に異動しフィリピンのマルコス政権の崩壊を目の当たりにしました。これがきっかけで、タイのバンコク駐在の特派員になり、カンボジアの内戦取材にどっぷり浸かりました。海で囲まれた日本とはまるで違う、陸続きの国境の意味も考えさせられました。国境を挟んで、こちらと向う側では全く状況が異なる。火事場の規制線ではありませんが、先に行ってみたい気持ちを抑えることができず、国境を超えカンボジアの前線にも足を運びました。
 軍にエスコートされ、畦道のような一本道を延々と歩くこともありました。周囲のジャングルからは、反政府軍の狙撃兵が狙っているところです。一歩でも足を踏み外せば、そこは地雷原。逃げ道がないところにいると、自分がいかに無力か、実感しました。当時は、取材しても、東京にニュースを送る手段が十分ではありませんでした。電話やテレックスはあったものの、いつ繋がるか分からない代物でした。しかし現地では自分のペースで好き勝手ができました。それが衛星通信を使えるようになると、「今、何処にいる?」「定時連絡を!」と、東京から頻繁に連絡が入るようになり、正直、うんざりしたものです。
 91年の湾岸戦争は初めてリアルタイムで戦争が茶の間に入ってきました。イラク現地からのリポートは英語。生放送は同時通訳が日本語に翻訳するという手法でした。当時、イラク情報省には日本語ができる担当者がいませんでした。このため、リポート内容を検閲するために、日本語の使用を禁止したのです。担当官には事前にリポート内容を英文で渡し、本番ではそれを日本語で伝えると言ったのですが拒否。原文通りに話しているのかチェックできないと言うのです。このことは「戦場には信頼がない」ということを、私に痛感させました。戦争を伝える難しさもあります。何人死んでも一人一人の死の重みは同じはずです。百の言葉より、傷ついた人や死体の映像の方が解り易いこともあります。しかし映像にも限界があります。爆音などのインパクトに圧倒され、視聴者にカメラのフレームに入らない周囲のことを的確に伝えることができなくなることもあります。映像で映しだしているものは「事実」です。でも必ずしも「真実」ではない!そんなことも実感しました。戦場の凄惨さにマヒしてしまい、もっと強い刺激が欲しくなることもありました。「自分だけは大丈夫」という落とし穴にもはまります。友人の記者が「この戦争はダーティだ」と言いましたが、「戦争はみなダーティ!」「War is Dirty !」ではないか。戦争は二度と繰り返さないと言いますが、一つ終わってもまた起きる。戦争に終わりがあるのか?戦争が終わったと言えるのは「戦死者」だけというのが皮肉な現実です。
 日本に戻り、ニュースウオッチ9のキャスターを務めているときに体調を崩し降板。その後職場復帰すると、上司から朝の番組をやってみないかと打診され「あさイチ」に出演するようになりました。「八重の桜」の綾瀬はるかさんの隣に座るという役得もありました。番組の中で家庭内のことを調子にのって暴露し、戦場では踏まなかった地雷を家で踏んだこともありましたが、世界観が拡がりました。あるテレビドラマの中で物理学者役の福山雅治さんが「結果には必ず原因がある」と格好よく言っていました。物理学者は現象を観察して仮説を立てそれを実験で証明する。記者も似ています。現実をよく見て取材で材料を集めて、それをもとに筋道を立てて実証する。私も最近、福山さんにあやかって「ニュースには必ず過去に種がある」をモットーに記者遍路を続けています。

<柳澤 秀夫氏プロフィール>
昭和52年NHKに入局。横浜、沖縄各放送局記者を経て昭和59年から外信部記者。バンコク、マニラ各特派員、カイロ支局長を歴任し、カンボジア内戦、湾岸戦争などを取材。平成14年に解説委員・中東情勢を担当。9.11同時多発テロ、イラク戦争などに関するドキュメンタリーや討論番組でキャスターとして活躍。ニュースウオッチ9を担当中に体調を崩し1年余り休養。平成24年6月解説委員長、本年6月現職

平成24年度文化講演会『・福島県の放射能汚染と住民の避難、・福島の復興に向けた課題、・原子力損害賠償と復興について』原子力規制委員長 田中俊一(高15回)

●講師紹介 田中俊一氏(工学博士、高15回)

 昭和42年4月 日本原子力研究所入所、同14年7月 理事、東海研究所長、同16年1月 副理事長、同19年1月~21年12月 原子力委員会委員(委員長代理)、現在 NPO「放射線安全フォーラム」副理事長。原発事故発生後、原子力損害賠償紛争審査会、環境省環境回復検討会の各委員、福島県の復興検討会、除染アドバイザー。(2012年9月19日原子力規制委員会初代委員長に就任。)

 六月六日(水)午後7時から8時45分まで、新宿・エスティク情報ビル21階会議室にて開催された。参加者47名。講師は原子核工学の専門家田中俊一氏。昨年三月の東京電力福島第一原子力発電所事故後の、福島県民と福島県がおかれている状況をふり返り、福島県がよみがえるための課題とは何か、福島県がよみがえるために何が必要か、何をなすべきかについて、状況写真、科学的データ、行政の指針やそれに対する批判などを織り交ぜて、熱く語られた。

●講演要旨

 内容は「一、福島県の放射能汚染と住民の避難、二、福島の復興に向けた課題、三、原子力損害賠償と復興について」の章立てで、一では生々しい事故状況の写真やセシウムの汚染濃度分布図を示し、住民の避難基準、・避難指示区域の見直しについて説明された。
 特に力説されたのは二であり、福島の復興に向けた課題として①「放射能の除染」、②「放射線 ・放射能に対する不安の克服」を取り上げられた。
 まず、①では、避難住民が復帰するための除染、放射線被ばくの不安を緩和するための除染、農業等を営むための除染、元の環境を取り戻すための長期的に取組む除染(山林等)の実例を写真で示しながら、「農水省は、昨年から農地除染や放射能調査をしているが、対策を示さずに作付制限を課しているだけで、福島の農家は先の見えない不安を抱いている。」との指摘もあった。
 次いで、除染に係る国の取組みとして除染特別措置法と除染等のロードマップを示し、除染の予算関係では「第二次補正予算から2179億円が除染関係に割り当てられ、約1840億円が福島県の基金として配算されたが、未だに十分に一銭も活用されず、除染が進んでいない。」との実情も吐露された。
 さらに、除染に伴う廃棄物処理・処分に係る国の義務と住民の責任分担に触れ、除染が進まない理由も挙げて、「国と県は、除染は住民の私有財産に手をかける作業であり、住民から顔の見える自治体が主体となって、住民の協力を得なければ不可能であることを理解することが必要!」と強調された。
 続く②では、内部被ばくが怖いという不安を軽減するための知識として、「私たちは日々の生活の中でかなりの放射能を摂取している。1950~1960年代には大気中の核実験による放射能が環境を汚染し、私たちの体の中にはセシウムやストロンチウムが相当量蓄積されていた。体に効くといわれるラジウム(ラドン)温泉は、一リットル当たり110ベクレル以上の放射能が含まれていることが認定基準で、ここでは沢山の放射能を吸入するが、私たちは昔から健康や治療のためにラジウム温泉を利用している。」こうしたことを思い起こして不安を払拭してほしいと強調された。
 また「国民は国が示した計算式を使って個々に被ばく線量を評価し、さらには年間1ミリシーベルト以下でなければ我慢できないという呪縛に陥っている。この呪縛を解きほぐすことができなければ、日々の不安は長期に続く。大事なことは、実際に個々人が被ばくしている線量の実態を知ることと、その数値の意味を理解することである。」とも力説された。
 その上で、健康的な生活習慣を、すなわちタバコを控え(できれば禁煙して)、酒もほどほどに、食べ過ぎ(男性)・痩せすぎ(女性)に注意し、野菜を食べてよく運動するといったことに心がけると、現在程度の放射線被ばくによるマイナスは簡単に取り戻せ、健康で長生きできるはずです。」と結ばれた。
 最後に、原子力損害賠償と復興についても触れられ、「福島県は必ず復興できる!」との希望も込めて講演を終わった。その後、幾つかの質疑応答がなされ、参加者一同、原発事故に対する理解を深めて満足げであった。

平成24年度文化講演会『海上自衛隊勤務を通じて感じたこと』鈴木秀典氏(高17回)

 7月13日(水)午後6時半~9時に、川島廣守会長ほか37名の参会を得て、グランドアーク半蔵門にて行われた。野口英世記念会館が閉鎖されたため、会場を変え「文化講演会と納涼の夕べ」として開催されたものである。

講師・鈴木秀典氏(元海上自衛隊一佐 高17回)

(講師紹介)
南会津町田島生まれ。艦艇勤務(専門職種=艦砲・ミサイル射撃)。護衛艦「あきづき」(三佐)、同「みねゆき」(二佐)、同「あおくも」艦長(二佐)、舞鶴地方総監部監察官(一佐)などを経て、佐世保警備隊司令(一佐)を最後に定年退職。現在、鹿島建物総合管理(株)人事部。

(講演要旨)

 冒頭、自己紹介の後、東日本大震災のときの海上自衛隊の報道されていない活動の実態について語られた。当日、横須賀地区では昇任筆記試験を実施中で、これをやり遂げた後、受験者たちは急いでそれぞれの艦に戻り、そのまま緊急出港。現地では、喫水の深い護衛艦等は沖合でヘリコプターも動員して広域捜索活動を、喫水の浅い掃海艇等は陸岸近くで、水中処分隊員がゴムボートで、瓦礫で汚れ水中視界不十分で危険な中、被災者等の捜索・救難及び遺体捜索・収容に当たったこと。満載していった物資をホーバークラフトやヘリコプターで被災地に陸揚げ・輸送したことなどについての内容であった。
 以下、四面海なる我が国を囲む広大な海域の防衛を、海上自衛隊の定員4万9千人という東京ドームの定員(5万5千人)にも満たない人数でこなしている具体的内容について、ご自身の豊富な経験を基に、艦船勤務幹部の生活を軸にお話されたが、紙面の制約で残念ながら大部分を割愛せざるを得ない。
 まず、幹部(三尉)に任官当時の日本一周の近海航海および世界一周の遠洋航海でのエピソードを披歴。次いで艦船勤務、すなわち護衛艦での訓練=①対潜戦(ASW)、②対水上戦(ASUW)、③対空戦(AAW)=の具体的内容であった。専守防衛を国是とする我が国は敵基地などを攻撃できる武器を持っていないので、万一の時は米軍に頼らざるを得ない。米海軍が恐れるのは敵潜水艦からの攻撃で、海上自衛隊はそれを無力化することに重点を置いて対潜戦を最重要視しており、その活動の詳細な解説がなされた。
 さらに、大部隊の出撃訓練、船団護衛の要領などの話があった。この一環として、昭和60年の「能登半島沖不審船事件」では、法の制約で不審船の前にロープなどを投げ入れてプロペラにからませることぐらいしかできなかった。これを教訓に海上保安庁法第29条に「船体射撃」が加えられ、平成13年の「九州南西海域工作船銃撃事件」の時には功を奏し、自沈した不審船は、後刻北朝鮮の工作船と判明した。このように、「やるときはやる」という国家としての毅然とした態度がないと、中国や北朝鮮やロシアは主張を次第にエスカレートしていく。かつ、国家のためにと思って努力しても、帰ってきたら、自国の法律によって、場合によっては殺人罪や傷害罪、器物損壊罪で訴えられる可能性があるのでは、自ずと決断も鈍ってしまう。
 さらに、『「政治」は血を流さない戦争であり、「戦争」は血を流す政治である。』を信条に貪欲に国益を追求してくる列国と渡り合うに際し、どうしても「戦争」を避けたいのであれば、我が国の政府には、「政治」を「血を流さない戦争」と改めて認識し直し、もっともっと毅然とした態度で戦略的に行動してもらいたいとも強調された。
 そして、皆様に、是非、自衛隊の立場と、頑張っている後輩たちにご理解を賜りバックアップしていただきたいと願うばかりです、と締められた。
 艦船勤務の現場・現実を聴き、日本の防衛問題の難しさを改めて肝に銘じた。
   ~まとめ 遠藤暢喜(高8)

平成23年度文化講演会『「愛する母校」を語る』安部哲夫氏(高13回)

 恒例の文化講演会が6月9日午后6時半から、東京・千駄ヶ谷の野口記念会館で開かれた。この日の講師は、母校教諭時代の昭和54年、会津高校男声合唱団を全日本合唱コンクール全国大会で初の金賞に導いた安部哲夫氏(高13回)。
 安部講師は、野球を志した時代に始まって現在の(株)会津磐梯カントリークラブ(CC)の経営を預かるまで、経歴を区切りながら「愛しい母校」と題して川島会長以下約40名の会員を前に講演した。

 講演は、①会津高校の生徒②高校教員③会津高校の教員④県教育委⑤会津磐梯CC責任者と時代を分けて進められた。圧巻は、上記の金賞に始まる3年連続の全国大会金賞獲得とそこにいたるユニークな指導ぶり。
 男子高校で合唱をやることについて、生徒はもちろん保護者の意識の改革が必要だったこと、思い切って土・日の練習は休みにしたこと、生徒一人一人の個性をいかすよう努めたことなどが明らかにされた。
 また、それを集約した「待つ」、「許す」、「叱る」という対応の使い分けは、人材養成一般に通じるものとして注目された。
 講演の途中、初の金賞獲得時の自由曲「ゆうやけの歌」合唱を講師持参のポータブルCDプレイヤーで鑑賞した。力強くかつ繊細な男声合唱の響きが半世紀近い時間を超えて蘇った。
 終了後、講師を囲んで懇親会が開かれた。安部氏が武蔵野音楽大を受験した際、指南役を務めた同大OB菊地俊一氏(高5)の発声で乾杯し、安部夫人と小野高校時代の教え子の女性2人も加わって歓談した。
  会報委員長 丹藤佳紀(高11回)