今年も私の大好きな爽やかな秋がやってきた。食欲の秋、瞑想の秋、読書の秋、天高く馬肥ゆる秋、実りの秋、芸術の秋‥など秋は様々な形容が多い季節である。いずれも生命活動の充実に一番よい季節であると感じている。川島廣守前会長にご教示頂いた「生きることは学ぶこと」を信条とし何からでも学ぶよう心掛けているが、何といっても人から学ぶことが多い。勝れた人との交流から直接学ぶことも勿論であるが、面識はなくても読書によりその人の言葉や伝記からも多くの学びを得ることができるものである。感動した名言を書斎の壁面に貼り毎日心の支えにしている。思索の秋に今までに出会った名言について思いを巡らしてみたい。
 2016年アメリカの大統領選挙があるそうだが、共和党の指名獲得を目指す候補者に、元米ヒューレット・パッカード(HP)の最高経営責任者(CEO)であったカーリー・フォーリーナ氏がいる。彼女の人生哲学としてし知られる次の言葉がある「人生は選択肢だらけよ。何かを選ぶためには何かを捨てなければいけない。でも後悔しないわ。いつも完璧な選択ができたわけじゃないし、勘違いもしてきた。それでも後悔はしないの。」(2003年7月21日HPホームページインタビューより)。冬の使者  

 正にその通り人生は選択の連続である。決断に際し迷うことも多いし、往々にして間違った選択ををすることもあり得る。ここで悲嘆にくれくよくよと後悔するのではなく、どうすれば事態が解決するか、何をすべきかを考えることが必要であろう。しかし人間は弱い後悔してしまうものである。しかし彼女の心の姿勢を見習いたい。受付から身を起こし巨大企業のCEOになった女性の言葉だけに説得力があり人生の大事な教訓と受け止めるものである。 そういえば、文芸春秋社の社長を務め作家でもあった菊池寛氏が人から揮毫を請われると好んで「我事に於いて後悔せず」と書いておられたと聞いたことがあるが、これは巌流島の決闘で有名な宮本武蔵の「独行道」の中の言葉である。宮本武蔵は生涯の60余回の決闘に一度も後れを取ったことがないという剣術のほか、絵画・彫刻にも優れていたという。学ぶべきことが多い奥の深い人生の達人である。 洋の東西を問わず魅力ある人間の心持ちは共通である。さらに「後悔はしない」という強靭な精神は現状を素直に肯定するということにも繋がる。赤塚不二夫さんの代表作の一つ「天才バカボン」の中のバカボンパパが口癖のように「これでいいのだ」と言い切っている。これは人生を生きる上で豊かな人生を築くための大事な知恵と言えるのではなかろうか。直面した事態が嬉しい事、歓迎すべきことである場合は勿論のことだが、苦難に直面したしたときでも、いやそのときこそ愚痴や文句を言うのではなく「これがいいのだ」と現実をむしろ歓迎することが困難な事態を好転させることになると信じている。苦難はむしろ歓迎すべき救いの女神である。事業でも家庭の事でもこの心境で努力した人が奇跡的とでも言いようのない成功をつかんだ事例は多い。
 さて、学ぶべき貴重な名言がもう一つある。ご存知の明治維新の精神的指導者・理論者として知られる長州藩士吉田松陰の言葉である。 「夢なき者に理想なし・理想なき者に計画なし・計画なき者に実行なし・実行なき者に成功なし・故に夢なき者に成功なし」 「志を立てて以って万事の源となす」ということであるが、これが意外と難しい。心にしっかりと刻みたい言葉である。高杉晋作、桂小五郎他幕末維新の指導者を多く育成したこの偉大な碩学から学ぶべきことは限りなく多い。吉永小百合の歌に「いつでも夢を」があるが、自分は「死ぬまで夢を」持ち続けたい。最後に数年前より書斎に掲げ毎朝心を引き締めている九条武子夫人の歌を紹介して筆を擱く。 「見ずや君 あすは散りなむ花だにも 力のかぎりひと時を咲く」。


<表紙写真のことば >「冬の使者」 吉川直佑(高13回)
 猪苗代町の三条潟の猪苗代湖に、今年は例年より少し早めにコハクチョウが飛来した。例年より一週間程度早いという、シベリア方面から南下してきた「冬の使者」は湖面でゆったりと羽を広げ、長旅の疲れを癒している。
 写真の白鳥は飛来後2羽3羽と群れをなして周辺の上空をゆったり偵察飛行をはじめる。来年3月頃まで滞在する猪苗代湖の様子を、すみずみ迄知っておこうと時間をかけているのかもしれない。
 猪苗代町翁島にある「野口英世記念館」の遥か上空を仲良く飛翔する白鳥を600ミリの望遠レンズ(㈱ニコンより借用)を用意して、半日がかりで撮影した。
 雪の多い猪苗代は冬に入ると晴れの日が続くのがめずらしく、撮影の成功にはたまたま運も味方してくれたのだ。