●講師紹介 田中俊一氏(工学博士、高15回)
昭和42年4月 日本原子力研究所入所、同14年7月 理事、東海研究所長、同16年1月 副理事長、同19年1月~21年12月 原子力委員会委員(委員長代理)、現在 NPO「放射線安全フォーラム」副理事長。原発事故発生後、原子力損害賠償紛争審査会、環境省環境回復検討会の各委員、福島県の復興検討会、除染アドバイザー。(2012年9月19日原子力規制委員会初代委員長に就任。)
六月六日(水)午後7時から8時45分まで、新宿・エスティク情報ビル21階会議室にて開催された。参加者47名。講師は原子核工学の専門家田中俊一氏。昨年三月の東京電力福島第一原子力発電所事故後の、福島県民と福島県がおかれている状況をふり返り、福島県がよみがえるための課題とは何か、福島県がよみがえるために何が必要か、何をなすべきかについて、状況写真、科学的データ、行政の指針やそれに対する批判などを織り交ぜて、熱く語られた。
●講演要旨
内容は「一、福島県の放射能汚染と住民の避難、二、福島の復興に向けた課題、三、原子力損害賠償と復興について」の章立てで、一では生々しい事故状況の写真やセシウムの汚染濃度分布図を示し、住民の避難基準、・避難指示区域の見直しについて説明された。
特に力説されたのは二であり、福島の復興に向けた課題として①「放射能の除染」、②「放射線 ・放射能に対する不安の克服」を取り上げられた。
まず、①では、避難住民が復帰するための除染、放射線被ばくの不安を緩和するための除染、農業等を営むための除染、元の環境を取り戻すための長期的に取組む除染(山林等)の実例を写真で示しながら、「農水省は、昨年から農地除染や放射能調査をしているが、対策を示さずに作付制限を課しているだけで、福島の農家は先の見えない不安を抱いている。」との指摘もあった。
次いで、除染に係る国の取組みとして除染特別措置法と除染等のロードマップを示し、除染の予算関係では「第二次補正予算から2179億円が除染関係に割り当てられ、約1840億円が福島県の基金として配算されたが、未だに十分に一銭も活用されず、除染が進んでいない。」との実情も吐露された。
さらに、除染に伴う廃棄物処理・処分に係る国の義務と住民の責任分担に触れ、除染が進まない理由も挙げて、「国と県は、除染は住民の私有財産に手をかける作業であり、住民から顔の見える自治体が主体となって、住民の協力を得なければ不可能であることを理解することが必要!」と強調された。
続く②では、内部被ばくが怖いという不安を軽減するための知識として、「私たちは日々の生活の中でかなりの放射能を摂取している。1950~1960年代には大気中の核実験による放射能が環境を汚染し、私たちの体の中にはセシウムやストロンチウムが相当量蓄積されていた。体に効くといわれるラジウム(ラドン)温泉は、一リットル当たり110ベクレル以上の放射能が含まれていることが認定基準で、ここでは沢山の放射能を吸入するが、私たちは昔から健康や治療のためにラジウム温泉を利用している。」こうしたことを思い起こして不安を払拭してほしいと強調された。
また「国民は国が示した計算式を使って個々に被ばく線量を評価し、さらには年間1ミリシーベルト以下でなければ我慢できないという呪縛に陥っている。この呪縛を解きほぐすことができなければ、日々の不安は長期に続く。大事なことは、実際に個々人が被ばくしている線量の実態を知ることと、その数値の意味を理解することである。」とも力説された。
その上で、健康的な生活習慣を、すなわちタバコを控え(できれば禁煙して)、酒もほどほどに、食べ過ぎ(男性)・痩せすぎ(女性)に注意し、野菜を食べてよく運動するといったことに心がけると、現在程度の放射線被ばくによるマイナスは簡単に取り戻せ、健康で長生きできるはずです。」と結ばれた。
最後に、原子力損害賠償と復興についても触れられ、「福島県は必ず復興できる!」との希望も込めて講演を終わった。その後、幾つかの質疑応答がなされ、参加者一同、原発事故に対する理解を深めて満足げであった。