平成27年7月8日(水) 18:00~グランドヒル市ヶ谷

                講 師 首都大学東京大学院名誉教授 星 旦二(高23回)

今日のテーマは「健康長寿と生涯現役でいこう、ピンピンコロリの法則」です。

1.健康規定要因

 ロンドン大学留学中に「なぜ日本人の平均寿命は延びたのか」と訊かれました。私が医療とかいろいろ言ったところ「違う」と反論されました。ロンドン大学の先生たちは、「きっと明治維新の時代に、読み書きそろばんを全ての国民ができたのは日本しかありませんでした」ということでした。「国土が全部緑に囲まれているのも日本しかありません」とか「経済力も大きい」ということも議論になりました。日本人の勤勉さであるとか、仏教であるとか、いろんな要素が重なり合って、この今の長寿国を支えているのではないか、こう考えています。
 かかりつけ歯科医師がいて、BMIが高く、コレステロールが約250mg/dl以上の人が最も死なないということをご存じですか。杉並・世田谷と、足立・葛飾では、どちらのコレステロールが高いでしょうか。杉並・世田谷です。コレステロールが高いから血管の壁が丈夫で、破裂しなくなったのです。肌がきれいで、腰が曲がらなくなったのは、ビタミンDの材料がコレステロールだからです。がんの免疫細胞の材料でもあります。

2.なぜ長野県は長寿なのか

 成人の死亡率が青森県の半分しかないのが長野県です。肝臓がんの死亡率が、なんと全国より男女とも4割も少ないことが分かりました。肺がんの死亡率も全国で最下位です。喫煙率も最下位です。医療費は全国最少の県の一つです。
 寝たきりをどうやって減らすかは、入院を最小にして、基本的に高齢者にはしっかり働いていただくことが、結果的に寝たきりを減らすのではないかということです。長野県から学んだキーワードは「最期の日まで長靴を履いていたい!」です。

3.生涯現役研究

 1986年にスウェーデンなどを訪問した時のことです。ちょうどその頃は“大きな施設に集団で”という考え方を変えている時期でした。そこで「次なる課題は何でしょうか。」と尋ねたところ、「それは決まっているだろう。今まで、スウェーデンがやってきことは寝たきりの後追いであった。これから大事なことは、寝たきりの発生予防である。」という答えが返ってきました。「ではどうすればいいのすか」と訊くと「それは簡単だよ。口紅・化粧・身だしなみだ」と言われたのです。
 全国の16の市町村にお願いして、そのまちの高齢者全員をずっと追跡調査しています。「買い物に行く人」は長寿だと思いますか。追跡したところ、何と「買い物に行く人」はほとんど死なないのです。「健康だと思う人」は人は、2万人二年間で20人しか死亡しませんでした。ところが「健康じゃない」と思っている人は340人が亡くなりました。
 WHOがスピリチャル・ヘルスに応用したデータと全く同じ結果でした。
 多摩市13,000人の追跡データですが、ほとんど毎日外出する人は生存が維持されます。ところが滅多に外出しない人は、大体3割近く生存率が落ちてしまいます。口紅・化粧・身だしなみが重要のようです。「是非、嫁に渡した財布を取り返していただきたい」。これが本日のメッセージです。

4.世界の健康支援動向

 世界の健康政策の大きな動きとしてヘルシーシティーとか、ヘルシーカンパニーとか、ヘルシースクールがあげられます。非常に驚くのは、これを大統領や首相自らが先頭に立って頑張っているということです。もうひとつの大きなポイントは、今世界が一生懸命取り組んでいるのは、笑うとか、ヨガとか、エステとか、森林療法とか温泉療法です。最も利用しているのは、高学歴、高社会階層です。
 世界の大きな流れはインフォームド・チョイス(Informed choice)であり、ペーシェント・ファーストです。そして健康の政策を優先課題にする、これが世界の大きな流れだと、思います。何よりも、徹底した予防、つまりゼロ次予防です。年に1回の検診より、毎日のモデルが必要です。大切なことはネガティブな発想よりも、もっとポジティブな発想です。高齢者のあら探しをして喜んでいる場合ではないのです。
 大事なことは、楽しく前向きに生きるということだと思います。障がいがあったら、みんなで支える。こういう発想です。皆さん、ご夫婦だと年金を1年間で300万円以上もらえるはずですから、25年から30年近くもらえれば、累積1億円になるわけです。pinpin
 最後のまとめです。早世予防と健康寿命を延ばすこと、これが今日のテーマでした。WHOは、もちろん医療も大事であるが全ての分野と手をつなぐことを提案しています。私は、もう少し健康政策を重視する話だとか、健康を支援する環境を整備しようという話だとか、口紅・化粧・身だしなみ、そして財布を握りしめ、他人には渡さないということも是非加えて欲しいと思っています。
 今日の話のいくつかが、私のホームページからダウンロードできるようになっていますのでご覧下さい。また、ワニプラス出版から、「ピンピンコロリの法則」という本も出ていますので機会があったらお読み下さい。
                    <星 旦二氏のプロフィール>